花板 虹子

2020/4/15

料理長 虹子が料理勝負や経営難に料理で立ち向かう話。
 料理漫画でかつ荒唐無稽ではない現実的なストーリーで絵柄からも青年誌のような雰囲気の作品だが、読んでみると少年漫画のようだった。
 次々に悪いやつや困難が襲いかかるも主人公が苦戦しながらも乗り越えていく。しかも強力なライバルたちは主人公の人柄に惹かれて次々と仲間になっていく実に王道的で素晴らしい漫画。
 なんと言っても全体の調和がいい。すごく憎々しい悪役も困難としての役目を終えるとなんとなく許せるような話の作りになっていたり、主人公も作中ではトップクラスの実力を持ちながらも決してただの無双漫画にはならない、更には料理漫画にありがちな安直なフフフこんなことも知らなかったんですねと言うような知識落ちにも頼らないすごく良く出来た漫画だった。作者のバランス感覚がとても優れているのがよくわかる。
 こんな良い漫画がいわゆる有名漫画やおすすめされる漫画には上がらないのだろう。なんというか、もしかすると、あまりの秀作ぶりにいまいち素晴らしさが光らないのではないかとも思った。あまりにソツがないからグッと来ないというか。質実剛健そのものでキャッチャーさがないのかもしれない。僕はこういう実直な漫画が好き。
 強いて悪いところを上げるとすれば終盤にある。月光楼という最後の宿敵となるライバル店があるのだか、ここがあまりにえげつない。今までの悪役は曲がりなりにも合法であって仕方なさがあったり、まぁまぁ虹子がええならええわというくらいの気持ちで許せるようなやり口だったが、この月光楼は違う恐喝窃盗傷害家宅侵入美人局に賄賂や威力業務妨害と無茶苦茶やる。非合法組織もいいところ。もはや料理漫画ではなくヤクザ漫画なのだがあくまで料理勝負で打ち負かす。とはいえこの料亭の主人は他の悪役たちとは違い虹子に感服するも直接の謝罪は叶わず亡くなる。読者的にはある程度の溜飲も下がる終わりになる。そういうところにもバランス感覚を感じる。